ピカデリーサーカスは、ロンドンでも1、2を争う繁華街で
かつては「SANYO」のネオンサインが輝いていたスポットです。

ロンドンに来た人なら
おそらく一度は足を運ぶ場所ではないでしょうか。

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夜のネオン輝くピカデリーサーカス(wikipediaより引用)

このあたりには日本の雑誌や食材を扱う店もあって
私も休みになると、用もお金もないのに
ウロウロとよく歩き回っていたのです。

そんなある時、背後から男性の声で

「Excuse me, Miss」
と呼び止められたことがありました。

ふと振り返ると、50代くらいで背が高く、ダークヘアの男性が
ウールのトレンチコートを着て立っていました。

「突然お呼び止めして申し訳ありません」

とその男性は丁寧な言葉遣いで話しかけてきました。

「けっして怪しいものではありませんので、
少しお時間をいただけませんか。」

とすぐそばのカフェを指差し、

「お茶でも飲みながら、お話したいのですが…」

と言ってきました。

私もそもそもヒマでしたし、昼間でしたし
ガラス張りのカフェで、このおじ様とお茶を飲むくらいなら
危険はなさそうに思いました。

もしいざという時があれば、クラヴ・マガで何とかなるかな
という考えもあったので、
おじ様のオファーを承諾し、カフェに入りました。

お茶が運ばれてくると、
おじ様はさっそく私に

ロンドンのとあるクラブで働かないか、

という話を持ちかけてきました。

話を聞いてみると、
どうやらロンドンに、期間限定で開店するクラブがあり
それは店舗を持っているわけではなく
月に何度か、高級ホテルの一室を借り切って、
メンバーだけが入れる「クラブ」をオープンしているというのです。

お客のメンバーはロンドンのお金のある人たちで
売春などのいかがわしい行為は一切ない
次にどこでクラブを開くかは外部にオープンにしてはいけないので、
秘密はしっかり守ってほしい。

加えて常に世界各国の若い女性が揃っていることがウリなので
無断欠勤は絶対に困る、という話でした。

さらに、

「失礼ですがミス、あなたの洋服のサイズは?」

と聞かれたので、
UKサイズの10だと答えると、

「Perfect. でしたら衣装はこちらで用意できます。」

衣装代もかからず、
ロンドンのリッチマンたちの酒の相手をするだけで
割の良い報酬がもらえる
、とそういう話のようです。

今でいう、
キャバクラのようなものだったのでしょうか。

「・・・うーむ・・・」

もし親に知られたら、大目玉ではすまないでしょうが、
これはかなり面白そうだと、正直思いました。

ただ私のビザは、6ヶ月有効の観光ビザで
就労は禁じられていることと、
クラブの終了時間が真夜中過ぎなので
Richmondまで戻るにはタクシーしかないという点、
それより何より、
家主のMrs.Mに何と言い訳すべきかと考えると
受けるにはハードルが高すぎる話に思えました。

すると、私が悩んでいるのを見越したかのように

「失礼ですが、あなたは学生さんですね?
こう言ってはなんですが、
私どもで月に数回、働いてもらえれば、
おそらく生活費の心配は減るのではと思いますが・・・」

私のかかとのすり減ったスニーカーでも
目に入ったのでしょうか(笑)。
そう聞くと、心はかなり動いてきました。

そこで思い切って、

「私のビザでは就労が禁止されているのですが、
ビザのサポートはあるんでしょうか?」

と、聞いてみました。

他は何とかなるにしても、
ビザに関してだけは危ない橋を渡りたくなかったのです。

しかし、やはりそこは
「内緒」で勤務してもらいたい、
という話でした。

考えてみれば当たり前の話です、
そもそもこのクラブ自体がアンダーグラウンドなものだったのでしょう。

もしかしたらこの話を受ければ、
3ヶ月どころか半年でも1年でも、
英国滞在を延ばせる可能性はあるかもしれないと思いましたが
もし不法就労(しかもアングラの)がバレたら、
二度と英国に入国できなくなる可能性もあります。

そういうわけで
本心ではかなり後ろ髪を引かれる話でしたが、
それらを考えると、断らざるを得ませんでした。

しかしそんな秘密クラブみたいなものが、
本当にロンドンにあるのかどうか。

あのおじ様が嘘を言っているようには見えませんでしたが
キツネにつままれたような話でもあります。

「裏ロンドン」を垣間見た一時でした。