今年度アカデミー賞の作品賞を受賞したという、映画「グリーンブック」を見てきました。
公開初日ということでかなり混んでいて、それがかえって一体感ある鑑賞(皆で笑ったりジーンとしたり)の元になってくれたような気がします。
すでにご存じの方も多いと思いますが、今作品のテーマは人種差別。
しかし全然重苦しい描き方ではなく、随所にクスッと笑えるユーモアがちりばめてあり、見終わった後に各自が映画を思い返しながら、人種問題について考えるような、そんな映画だったと思います。
物語の主役は黒人ピアニストのDr.ドン・シャーリーと、彼と共に南部ツアーを回るために雇われた運転手トニーです。
トニーはドクター(博士号所有者)シャーリーを、医者と勘違いしたり、Dear「親愛なる」を Deer「鹿」と書き間違えたり、よろしくない言葉を連発したりと、あまり教養はないけれども、心根は真面目で家族思い、そして気が短くて食いしん坊な男性。
そしてトニー自身、お金のためにDr.シャーリーに雇われるけれども、仲間内では黒人を eggplant「黒ナス」と呼び、差別意識を持っています。
一方で当時としては珍しく、黒人ながらも高い教育を受け、音楽家として富と名声を得ているDr.シャーリー。
この正反対の二人がツアーを続けていくうちに、だんだんと互いを理解し、Dr.シャーリーは人はいいけれども粗野なトニーにマナーと教養、忍耐の大切さなどを、トニーは堅物のDr.シャーリーに日々を気楽に楽しむことを知らずのうちに伝えあいます。
なるべくセリフに集中して見ていたら、いくつか心に残った言葉がありましたので、紹介したいと思います。
とにかく話好きなトニーはドライブ中も、ずーっとおしゃべり・・・静かに過ごしたいDr.シャーリーは
How about some quiet time?
少し静かにしてくれないか?
と彼に一言。
それでトニーは引き下がるかと思いきや、カミさんもあんたと全く同じ、How about some quiet time? って俺に言うんだよ・・・でさぁ・・・と、今度は奥さんの話を始めます(笑)。
字幕では確か「静かにしてくれ」みたいな感じだったと思いますが、奥さんと同じ言い方ということは、命令口調ではないのでしょう。
この言葉でもトニーに破格の給料を払っている「黒ナスのボス」Dr.シャーリーは、マナーの良い人と分かります。
そしてトニーの奥さんは、夫や親せきが eggplant「黒ナス」と呼び嫌う黒人の人々にも分け隔てなく接する優しい女性で、物語の最後にはこの奥さんが締めくくる良いシーンが出てきます。
ツアーの途中、気の短いトニーが、南部の人々のDr.シャーリーへの理不尽な態度に腹を立て、暴力沙汰を起こしてしまう。
その際に、Dr.シャーリーはトニーにこんなことを言います。
You never win with violence, Tony.
暴力では決して勝てないのだよ、トニー。
You only win when you maintain your dignity.
ただただ品位を保つこと。
Dignity always prevails.
いつでも最後には品位が勝つ。
And tonight, because of you, we did not.
今夜は君のせいで、我々の負けだ。
Dr.シャーリーは、演奏家としてステージに立つときだけは、敬意をもってもてなされますが、楽屋は物置だったり、レストランへの入場を断られたり、トイレは戸外の掘っ立て小屋(黒人専用トイレ)を使うように言われたりと、他の場面では酷い扱いを受け続けます。
そんな時はいつも湧き上がる怒りをぐっと堪えて、毅然とした態度で白人たちと渡り合う。
それらの経験から来た、気の短いトニーへの心からの助言という感じで心に沁みました。
しかし尚もブツブツと文句を言い続けるトニーに、
I’ve had to endure that kind of talk my entire life,
私は生涯ずっとあんな言動に耐え続けるしかないというのに、
you should be able to take it for at least one night.
君はせめて一晩くらい我慢できないのか。
とDr.シャーリーは続けます。
トニーはツアーを続けるうちに、Dr.シャーリーを尊敬するようになり、彼を好きになっていきますが、北部NYに居れば安全な上、南部よりギャラも良いのに、なぜDr.シャーリーがあえて南部ツアーを決行しているのか?
それが不思議に思えてきて、ツアーに同行する白人音楽家にそれを尋ねると、彼はナット・キング・コールが数年前に南部ツアーで一部の観客から袋叩きに遭ったことを告げ、その後にこんな事を言います。
Because genius is not enough.
つまり天才ってだけじゃ駄目なのさ。
It takes courage to change people’s hearts.
人々の心を変えるには勇気もないと。
この言葉でDr.シャーリーは、白人たちの差別意識を少しでも変えるために、数々の嫌な思いに耐えながら、このツアーに臨んでいることを本気で理解したトニー。
トニーは自分の万引きをDr.シャーリーにチクった(そしてDr.シャーリーにめっちゃ叱られた・笑)この白人演奏家・オレグをそれまでは嫌いだったんですが、彼もまた自分の信念のもと、このツアーに参加している事を知り、オレグを見る目も変わっていきます。
・・・というわけで、とても素晴らしい映画でしたが、今もこのDr.シャーリーたちの闘いは終わっていないような。
Rich white people pay me to play piano for them,
裕福な白人たちが私の演奏に金を払うのは
because it makes them feel cultured.
自分たちが良い(教養ある、物事を分かっている)気分になるためだ。
作品中のDr.シャーリーのこの言葉は、この映画がアカデミー賞の作品賞を取った理由の一部も表しているような気もして(もちろんそれに値する良い映画ですが)、ちょっと皮肉にも感じました。
品位が大事だと、Dr.シャーリーは言っていますが、本当に彼にいつでも品位があるおかげで、見ているこちらも救われる場面がたくさんあるんです。
でないと悲しすぎて(そしてもし白人の観客ならば申し訳なさすぎて)つらい。
本当に彼のセリフの通り、最後は品位だけが自分も他人も救うんですね。
そのことが映画を見ている間にも実感できた、凄い映画でした。
理由は単純明快!「少ないコストでしっかり楽しく学べるから」。
私自身の経験(高機能でビックリ)をびっしり書いていますので、良かったら読んでみてください。
下のバナーからどうぞ!